台北医書探求録

台湾

第一話

さっきから、やたらと僕の周りをうろつく男性がいる。歳は四十過ぎであろうか。服装はかなりラフで、清潔感があるとはいいがたい。禿げあがった頭皮は、蛍光灯を反射させ、青白く輝いている。

重慶南路の地下にある書店に僕はいた。

ホテルでチェックインを済ますと、夕食までの時間を利用して、さっそく書店巡りに出ていたのだ。
螺旋階段から地下へ降りると、雑貨店があり、その奥に進むと書店に辿り着いた。入り組んだ構造だ。地下にあるがためか、喧騒からは隔離された感がある。

東洋医学に関する書籍が、所狭しと陳列している。客は中年の男が一人居るだけだった。僕は店員にメモを見せ、膨大な量の在庫の確認をお願いし、作業が終わるのを待っていた。その間、自分でも書籍を手に取り吟味をしていた。漢字だらけの空間。ああ、なんて幸せなのだろう。なかなか人と分かち合えないこの喜び。一人悦に浸っていた。



だが、その幸福なる静寂を切り裂くような、鋭い視線を感じる。
振り向くと、中年の男はなぜか、ジョジョ立ちをしていた。

いや、違うな。だが、頭を左右に揺すり、身体をクネクネとねじり、なにやらせわしない。僕に背を向けたままだが、チラリとこちらを覗き見てくる。外国人が珍しいのか。なにがそれほど気になるというのか。

視線は僕の手元に及んでいる。一瞬、視線が合うと男は目を逸らした。

やはりそうか。でも、わざわざ見せてやる必要はない。男の視線が届かぬよう身体をねじった。
だが、男は開き直ったのか、ポジションを変え再び、いや先ほど以上に大胆にのぞき込んでくる。…なんて露骨にガン見をするのだろうか。


男は爪楊枝を遊ばせて、落ち着きがない。歯間の掃除というよりは、精神安定剤の代わりのようだ。ずり落ちたメガネからは、疑い深そうな目が覗く。ウェットでどこか粘着質で、警戒を誘うものがあった。

螺旋階段からは生ぬるい風が流れてくる。
いやらしく皮膚に纏いつく。

視線が交錯する。
わずかに目が合った。

だが、今度はなぜか、目を逸らさずにジリジリと近づいてくる。
僕はジリジリと離れる。

暗闇の中で、電灯が点滅していた。

(つづく)

台北二手書巡り

雅舎二手書店
雅舎二手書店 医学書も若干あり。

竹軒
二手書めぐり


【二手書】
中古本のこと。書店街とはいっても、東京の神保町ほど密集していると訳ではない。書店数も比べれば、多くはない。

台北医書探求録1コラム①台北の書店巡り記録
台北医書探求録2コラム②二手書巡り
台北医書探求録3コラム③台湾の鍼灸
台北医書探求録4コラム④後記 ⑤MAP