台北医書探求録

台湾

最終話

地下書店での回想を終えたころ、タクシーは停車した。
運転手は慌ただしく「ここだ」と指さし、僕を降ろす。そのまま運転手は街の喧騒へ戻っていった。

時刻は迫っていた。フライトから逆算して、せいぜい30分。吟味している時間はない。これはと思ったものは、迷わず購入しておく方がよさそうだ。後悔はしたくない。

だが―


おかしい。記された住所にはなにもない。再度、確認するが間違いない。確かに此処で当っている。ならば、なぜ書店がないのか。どういうことだ。

書店のヌシは電話でやりとりをしていた。

「すべて此処にある。行ってみるといい」

在庫確認までしていたじゃないか。あれは幻だったのか。いやいや、そんなはずはないのだが……焦りで汗が噴き出してくる。そうだ。ヌシが住所を書き間違えてしまったのかもしれない。きっと、そうだ。ヌシに頂いた名刺に電話を掛ける。が、つながらない。額を拭いつつ、上着を脱いだ。

「…はやく帰ろうよ!」
息子のイツが不安げに急かしてくる。分かっている。フライトに遅れるわけにはいかない。猶予が欲しい。しかし、時間だけが過ぎていく。どっと疲労感が出てきた。

やはり、子連れで回るには無理がある。痺れを切らした息子をあやしながらの書店巡りであった。それでも、肝心の書店名を聞かなかったのは、大失態であった。まさか住所しか書いていないとは。

こうなったら、近隣を探してみるほかない。
通りがかった老婆に尋ねると、日本語が通じる。老婆によると、確かに以前ここには「十全」という書店があったが、随分前に閉店したという。
十全書店=欠ける物がない書店…? まさにそれだ。では、ヌシはどこに電話をかけていたのか?老婆は喜々として、東京に住むというひ孫の話をし始めたが、僕の耳には入らない。

「あなたが探しているものは、すべて此処にある。行ってみるといい。」

ああ……、そこには僕が求めるすべてがあったのに。

時間切れだ。


こうして、台湾書籍巡りの旅は終わった。

〈おわり〉

*駄文にお付き合い頂きありがとうございました^^

後記

やはり、直に書を手に取ることができたのは有意義であった。これを言ったら元も子もないのだが、実は中国・台湾の書籍が日本で手に入らないかというとそんなことはない。書虫や亜東書店、燎原書店でもかなりの数を扱っているし、燎原さんでは実際に手に取って何度も書籍を購入した。ただ、福岡にはない。福岡には中国書店さんがあるが、東洋医学系は扱っていない。やはり売れないのだろう。
台湾は繁体字のままなので、日本人にも読みやすい。

書籍の値段は概して安いが、旅費を考えれば元は取れないと思う。

河原燈観

台北医書探求録1コラム①台北の書店巡り記録
台北医書探求録2コラム②二手書巡り
台北医書探求録3コラム③台湾の鍼灸
台北医書探求録4コラム④後記 ⑤MAP