中心性網膜症、網膜色素変性症、黄斑変性症など、難病の眼疾患の治療経験のある鍼灸院はそれほど多くありません。そのような現状の中でこれらの疾患の治療機会を多数持つ誠花堂は、全国的にもまれな鍼灸院です。緑内障は失明の恐れがある疾患です。大前提として医師による定期的な検査と治療を優先し継続すること。その上で鍼灸も併用し全身的な安定を図ることは長期的な視野の維持のお役に立てると思います。中国医学における病因病機について現代医学における緑内障は、視神経の障害とそれに伴う視野欠損を特徴とする疾患であり、眼圧の上昇が主要なリスク因子とされています。中国医学(中医学)の古典においても、これに類似する症状や病態に対する詳細な観察と理論的考察がなされてきました。本稿では、中国医学の視点から緑内障に相当する疾患の病因(原因)と病機(病態の発生メカニズム)について解説いたします。病名・概念中国医学において、緑内障に相当する病態は主に「緑風内障(りょくふうないしょう)」「青風内障(せいふうないしょう)」「黄風内障」などと呼ばれてきました。これらは瞳孔の奥が緑色や青色に混濁して見えることや、急激な視力低下、眼痛、頭痛を伴う発作に由来する名称です。現代の急性閉塞隅角緑内障は「緑風内障」に、慢性緑内障は「青風内障」に概ね対応すると考えられています。中国医学における病因中国医学では、眼の疾患は局所の問題だけでなく、全身の臓腑や気血の失調が反映されたものと考えます。主な病因としては以下のものが挙げられます。情志の失調: 強い怒りや長期にわたる精神的ストレス、抑うつなどは、気の巡りを滞らせ(気滞)、熱を生じさせる原因となります。飲食の不摂生: 脂っこいものや辛いもの、過度な飲酒は、体内に「湿熱」や「痰濁」を生じさせ、気血の運行を阻害します。労倦(過労): 慢性的な疲労や加齢は、体を滋養する「精血」を消耗し、眼に十分な栄養が行き届かなくなる原因となります。外感六淫: 外界からの邪気、特に「風」や「火(熱)」の邪気が経絡を通じて頭部や眼に侵入することも誘因となります。こういった諸要素は一つ一つは些細なものに思われがちですが、積み重なることで外邪として働くことになります。病機(病態メカニズム)過度なストレス等により「肝」の気が滞り、それが熱に変化して上へと突き上がる「肝火上炎」が起こると、気血や体液が頭部・眼球に鬱滞し、急激な眼痛や眼圧上昇(緑風内障)を引き起こします。急な異変ですから、病院へ駆け込むことが多いのはこの場合です。鍼で対応できないとは言いませんが、まずはかかりつけ医の相談されることをお勧めします。その上で肝火を押さえる施術を行うことはとても良いです。また、加齢や過労によって「肝腎陰虚(肝と腎の潤いや栄養が不足した状態)」に陥ると、眼を養うことができず、徐々に視神経が損傷される慢性的な進行(青風内障)につながると解釈されます。誠花堂に来られる方はこちらが多いです。この場合は、長期的な視野の維持のために、根本的な体質の偏りを正していくような施術となります。臓腑経絡との関係中国医学の基礎理論である臓腑経絡説において、眼は全身の臓腑と密接に結びついています。特に緑内障と関わりが深いのは以下の臓腑です。肝: 「肝は目に開竅する」と言われ、視覚機能と直接的な関係があります。肝の疎泄(気を巡らせる働き)が失調すると、眼への気血の供給や液体の代謝に異常をきたします。腎: 腎は「精」を蓄え、肝を滋養します。腎精が不足すると肝血も不足し、眼の組織が虚弱になります。脾: 脾は消化吸収を担い、気血を生成する源です。脾の働きが衰えると、気血が不足するだけでなく、体内に水湿が滞り、それが眼の経路を塞ぐことになります。まとめ中国医学における緑内障(緑風内障・青風内障など)の理解は、眼を全身の臓腑や気血のネットワークの一部として捉える全体観に基づいています。気血の鬱滞、熱の偏在、あるいは肝腎の虚弱などが複雑に絡み合い、眼内の液体の循環障害(眼圧上昇)や視覚機能の低下を引き起こすと考えられています。体質や全身症状を分析し、局所の症状緩和だけでなく、全身のバランスを整えることが中国医学的アプローチの特徴です。【注意書き】緑内障は放置すると失明に至る恐れのある重篤な疾患です。眼の異常を感じた場合や、緑内障の診断を受けている場合は、必ず眼科専門医による適切な検査と現代医学的な標準治療(点眼薬、レーザー治療、手術など)を優先し、その上での鍼灸併用を考えて頂くことをお勧めします。